モチーフ・プログラミングの合成生物学

例えば、「機能A」に関連づけられた「モチーフA」と「機能B」に関連づけられた「モチーフB」があるとします。「モチーフA」と「モチーフB」の配列を連結させたペプチドを合成すると、そのペプチドは「機能A」と「機能B」の両方の機能を併せ持つ二重機能ペプチドとなります。これが「モチーフ・プログラミング」の基本的なコンセプトです(Saito et al, Nucleic Acid Res, 2007b)。 

 

 

 

用いるモチーフとしては、天然タンパク質の配列の中から同定されるモチーフを用いることができます。例えば、アポトーシスの信号伝達系因子の中から見いだされたBH3モチーフや、HIVウイルスのtatタンパク質の中から見いだされた細胞移入モチーフ(PTD)などです (Saito et al, Chem Biol, 2004; Saito et al, Cancer Sci, 2008)。  

 

このような天然モチーフの他にも、進化分子工学的手法(特にペプチド提示ファージ系)で得られる人工モチーフも用いることができます。人工モチーフは、天然にはとてもありそうにない活性—例えば、チタンに結合する活性(Sano & Shiba, JACS, 2003)や、カーボンナノ化合物に結合する活性(Kase et al, Langmuir, 2004)を創り出すことができるのが特徴です。人工モチーフと天然モチーフを同時にプログラムすることで、天然には存在しないような機能の組み合わせを持った人工タンパク質を創製できるわけです(Kokubun et al, Biomacromol, 2008)。  

 

「モチーフ・プログラミング」で重要なことは、単純な足し算が必ずしもそう単純には成り立たないことです。「モチーフA」と「モチーフB」の配列を単純に連結させただけのペプチドを合成しても、「機能A」と「機能B」の両方が発現されないケースが多々あります。  

 

そもそもこれは、「モチーフ」の「機能への関連づけ」が、必ずしも強固なものではないことに由来します。モチーフはしばしば、進化的に保存された領域として提案されます。保存された領域のアミノ酸変異が、何らかの生物学的表現型の変化をもたらす場合、「機能」との関連が提案されます。しかしながら、まだこの段階では、そのモチーフが、関連づけられた機能に必要であることは想像できますが、それだけで十分なのかどうかはよく分かりません。さらに進んで、そのモチーフ配列を他の分子に移植した場合に、対応した機能が同様に移植されるなら、その関連づけは強固なものとなります。この移植実験においても、ある場合には機能が移植され、他の場合では移植されない、といったことも起こります。すなわち、モチーフは、それが存在する周囲の構造から機能発現の影響を受けるといった「コンテクスト」効果をもちます。  

 

どのよううなコンテクストの時に、関連づけられた機能が最も効率よく発現するのかが合理的に予測できればよいのですが、なかなか分からないのが実際です。そこで、この問題を回避するために、われわれはMolCraft手法を用いています。すなわち、MolCraftにより、モチーフをいろいろなコンテクスト内で、いろいなコピー数でもつ人工タンパク質ライブラリーをまず作製し、その中から、期待した活性を最もよく発現するクローンを選び出す操作を進めます(Saito et al, Chem Biol, 2004; Saito et al, Nucleic Acid Res, 2007a; Kokubun et al, Biomacromol, 2008)。 

 

 

 

べつの見方をすると、MolCraftによるモチーフ・プログラミングは、機能のはっきりしないモチーフの解析手法として用いることができます。とりわけ、大きなタンパク質の中にあるモチーフや、不溶性のタンパク質の中に存在するモチーフから出発し、小さな可溶性人工タンパク質を創製することで、詳細なモチーフの機能解析が可能となります(Shiba & Minamisawa, Biomacromol, 2007; Tsuji et al, PNAS, 2008)。