MolCraftは蛋白創製研究部で開発された新しいタイプの人工タンパク質創製システムです(Shiba, J Mol Catal B, 2004)。

 

 

MolCraftを用いた人工タンパク質創製では、まず、複数の「モチーフ(=ある特定の機能と関連づけられた短いアミノ酸配列)」を「マイクロ遺伝子」の中に埋め込む作業から始めます。モチーフとしてはタンパク質の構造の中から同定される「天然モチーフ」や、進化分子工学から得られた「人工モチーフ」を用いることができます。どのモチーフを埋め込むかは、最終的にどのような人工タンパク質を創りたいのか、により合理的に選ぶことになります。 

 

 

マイクロ遺伝子には、モチーフを1つだけ埋め込むこともありますが、多機能人工タンパク質を創製する場合には、通常2つ以上のマイクロ遺伝子を埋め込みます。この場合、それぞれのモチーフを、マイクロ遺伝子のもつ異なる翻訳読み枠に埋め込みます。  

 

このようにして、異なる翻訳読み枠に、異なるモチーフを埋め込んだマイクロ遺伝子を、次にMPR法(Shiba et al, PNAS, 1997)と呼ぶ特殊な反応条件を用いて「繰り返し重合」させます。MPR 反応では3’末端にミスマッチ塩基対をもつ1組のMPRプライマーを用い、温度サイクルによるポリメラーゼ反応を進めます。この特殊なプライマー設計を利用することで、鋳型がない状態で、MPRプライマーから再構成されるマイクロ遺伝子を効率よくタンデムに重合させることができます。 

(MPR1の動画 別窓で開きます)

 

また、もう1つのMPRの特徴は、マイクロ遺伝子の連結部に、ランダムに塩基の欠失や挿入が起こることで、この変異が、重合体の翻訳読み枠をランダムに乗り換えさせます。したがって、得られたマイクロ遺伝子重合体の1つの読み枠を翻訳させると、結果的に、3つの翻訳読み枠がコードする3種のペプチドが、コンビナトリアル(組み合わせ的)に重合した分子集団を得ることができます。 

(MPR2の動画 別窓で開きます)

 

異なるモチーフは異なる翻訳読み枠に埋め込まれていますので、この読み枠の乗り換えの結果、これらモチーフがいろいろな順番、いろいろな数で含まれた人工タンパク質ライブラリーが調製できます。このライブラリーの中から、狙った活性をもっとも強く発現するクローンを選ぶことになります。

 

 

 

翻訳読み枠は、DNAの片鎖を考えると、3つあることになります。したがって、通常のMolCraftでは、3つまでモチーフのコンビナトリアルライブラリーを作製できることになります。4つ以上のモチーフの組み合わせを得る場合には、MolCraft II (Saito et al, Nucleic Acid Res, 2007b) やLa-MolCraft (Kashiwagi & Shiba, J Mol Catal B, 2004)を用いることになります。  

 

マイクロ遺伝子のもつ3つの翻訳読み枠の中で、モチーフをコードしていない2つの翻訳読み枠を、「隠れ読み枠」と読んでいます。この隠れ読み枠も十分に活用するために、われわれはCyberGeneと呼ぶプログラムを用い、多機能マイクロ遺伝子をデザインします。  

 

モチーフをコードするDNA配列は、コドンの冗長性から複数存在します。すなわち、プロリンをコードするDNAは、CCTでも、CCCでも、CCAでもCCGでもかまいません。通常1つのアミノ酸をコードできるDNA配列は1〜6種類存在します。それぞれは小さな数なのですが、RKSIRIQRGPGRTFVTIGKI といった20残基からなるモチーフをコードできるDNA配列の組み合わせは 1651億種類といった莫大な数となります。この1651億のDNA配列の隠れ読み枠を計算機の中で全て翻訳させ、その中から、特定の性質、例えばαへリックスを形成しやすいペプチドをコードできるDNA配列を選んできます。そうすることにより、選んだマイクロ遺伝子からMolCraftで創製される人工タンパク質は、埋め込んだモチーフが、αへリックスに富んだ骨格の中に提示されるようなライブラリーが得られることになります。このような「隠れ読み枠」への特定の性質の合理的な埋め込み操作を、特定の性質(例えばαへリックスなど)を「潜源化」する、と呼んでいます。 

(MPR3の動画 別窓で開きます)

 

MolCraftで得られる人工タンパク質の特徴の1つに「繰り返し性」が高いことがあげられます。遺伝子誕生における「繰り返し性」の重要性は、大野乾博士により早い段階で指摘されていますが、実際、MolCraftで作製した人工タンパク質には、高頻度で天然タンパク質に似た性質が観察されます(Shiba et al, JMB, 2002; Shiba et al, Protein Engn, 2003)。少しおおげさに表現するなら、MolCraftは、タンパク質の「構造」と「機能」のうち、「構造」を「繰り返し性」にゆだね、「機能」を「モチーフ」レベルで合理的に埋め込もうとするシステムと言えます。 

 

 

 

MolCraftは、このようにに、合理的な側面(モチーフを埋め込む)と選択を重視する側面(コンビナトリアルライブラリーである)の2つの側面を併せ持ちます。すなわち、蛋白工学と分子進化工学を融合したような新しい人工タンパク質創製手法です。

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